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仙台高等裁判所 昭和22年(ナ)6号 判決

原告

中村仙松

被告

靑森縣選擧管理委員會

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負擔とする。

請求の趣旨

被告が原告の靑森縣三戸郡是川村々長選擧に關する訴願に對して、昭和二十二年六月二十日爲した裁決を取消す。同年四月五日執行せられた同村々長選擧の當選人阿部藏三の當選を無効とする。

訴訟費用は被告の負擔とする。

事實

原告代理人は、その請求の原因として、(中略)被告委員會の裁決の理由とするところは、

是川村選擧管理委員會が判定した阿部の得票中には「アベコウゾー」、「村長河部」なる投票各一票があるが、

(イ) 「アベコウゾー」と記載した投票については、同村に阿部孝三なるものが現存しているとしても、阿部孝三は右村長選擧に立候補した者でないし、その字體等から判斷しても、これは阿部孝三を指したものとは認められない。又選擧人は村長候補阿部藏三の讀音、即ち「アベクラゾー」又は「アベソウゾー」を誤り「アベコウゾー」と誤記したので、一部讀音に相違するところがあるけれども、殆んど同音類似の發音をもつてする讀音をもつて記載されていること、及び阿部藏三の外、阿部なる村長候補が立候補していないことから、これは阿部藏三の得票と認めるのが相當である。

(ロ) 「村長河部」と記載した投票については、「河部」は「阿部」の誤字と認めるのが相當であり、「村長」の記載は知事選擧と同時に行つたものであるから、ただ單に村長候補者に投票する意志を表示したものと認めるのを相當とする。從つて「村長」の文字は村長候補者を意味したもので、別段他意ある記載とは認められないから、該投票は阿部藏三の得票と認めるのが相當である。

なほ是川村選擧管理委員會が、原告の得票中無効と決定した三票中には、同人の有効得票と認められるものが一票あり、又阿部藏三の得票中無効と決定した三票中にも、同人の有効得票と認められるものが一票ある。

以上審査の結果により各候補者の得票數を計算すると、阿部藏三の得票は五百二十三票、原告の得票は五百二十二票となり、各候補者の得票順位には異動が生じない。

というのである。(以下略)。

理由

昭和二十二年四月五日靑森縣三戸郡是川村の村長選擧が行はれ、原告と訴外阿部藏三の二名が立候補し、選擧の結果、選擧會で阿部の得票五百二十五票、原告の得票五百二十四票と認め、阿部を當選人と決定したこと。原告は同年四月八日是川村選擧管理委員會に對し、右決定に對する異議の申立を爲し、右委員會では阿部の得票五百二十五票及び原告の得票五百二十四票には夫々文字の確認し難いもの三票宛が含まれているから、之等を夫々右得票中から控除すると、阿部の 得票は五百二十二票、原告の得票は五百二十一票となり、結局、得票順位に異動がないといつて、同月十七日異議の申立を却下し、同月十八日原告に對し、その告知をしたこと。原告は同年五月二日更に被告に訴願したが、被告は同年六月二十日原告の擧示するような理由の下に「原告の請求相立たず」との裁決を爲し、同月二十七日その告知を爲したこと。以上の事實關係は何れも當事者間に爭がない。

本件に於て被告が原告の有効得票と認めた五百二十二票については爭がなく、唯被告が阿部の得票と認めた五百二十三票中の三票、即ち前記の(イ)「アベコウゾー」(ロ)「村長河部」なる各一票と、(ハ)原告において文字の判讀し難いものと主張する投票一票の効力についてのみ爭があるから、右三票について順次判斷する。

(イ)  「アべコウゾー」なる投票(檢乙第四號證)。右選擧の當時、是川村に阿部孝三なる者が居住していたことは被告も認めるところであるが、同人は右選擧に立候補したものでなく、立候補したのは原告と阿部藏三の二名だけであつたことも亦當事者間に爭のないことである。されば他に特段の事情が認められない限り、右投票は候補者である阿部藏三の得票と認めるべきである。

(ロ)  「村長河部」なる投票(檢乙第五號證)。右選擧に立候補したものは、原告と阿部のみであつて、他に「河部」又は之に類似の氏名を有する候補者はなかつたのであるから、「河部」は阿部の誤記と認めるべきであり、且「村長」の文字は、當該村長選擧に立候補したものであることを示すために書かれたもので、他意ある記入ではないものと認めるのが至當であるから、この記載があるからといつて無効とすべきではなく、結局右は阿部藏三の有効得票と認めるべきである。

(ハ)  原告が文字の判讀し難いものと主張する投票(檢乙第一號證)。原告がこの投票に該るものであると指摘する檢乙第一號證を檢するに、その筆跡は極めて稚拙ではあるけれども、これを「阿べ」と判讀し得ないことはない。即ちこの投票は候補者中に阿部藏三の外、阿部の氏を稱するものがなかつたのであるから、同候補者の得票として有効と認めるべきである。

以上の如くであつて、前記阿部の得票五百二十三票中、原告が無効であるとして爭う三票は、何れも之を阿部の有効得票と認めるべきであるから、この三票の無効を前提として爲す原告の本訴請求は理由がなく、之を棄却すべきものである。仍て訴訟費用の負擔につき民事訴訟法第八十九條を適用して、主文の通り判決をする次第である。

(谷本 村木 松尾)

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